「自社のシステム開発に補助金を使いたい」
「DXを進めたいが、できるだけコストは抑えたい」
そう考えたとき、真っ先に候補に上がるのが「ものづくり補助金」と「IT導入補助金」です。
しかしこの2つは、名前こそ似ていますが、対象となるシステムの考え方・難易度・リスクがまったく異なります。
ここを取り違えると、
- 申請が通らない
- 採択されたのに想定外の資金繰りに苦しむ
- システムが完成しないまま破綻する
といった事態にもなりかねません。
本記事では、数多くの企業支援に関わってきたWebマーケター兼コンサルタントの視点から、両補助金の決定的な違い、メリット・デメリット、そして「あなたの会社はどちらを選ぶべきか」をわかりやすく解説します。
1. 【比較表あり】ものづくり補助金とIT導入補助金の違い|システム開発での判断基準

結論から言います。
システム開発でどちらの補助金を選ぶべきかは、以下の違いに近いです。
- 「ゼロからオリジナルの家を建てるか(注文住宅)」
- 「すでにあるマンションに住むか(賃貸・購入)」
まずは全体像を比較表で押さえましょう。
| 項目 | ものづくり補助金 | IT導入補助金 |
|---|---|---|
| イメージ | オーダーメイド (スクラッチ開発) | 既製品ツールの導入 (SaaS・パッケージ) |
| 開発内容 | 自社専用システムをゼロから設計・開発 | 既存ツールを契約・設定して使う |
| 具体例 | ・独自業務フローに完全対応した在庫管理 ・新規Webサービス/マッチングアプリ | ・freee/マネーフォワードで経理自動化 ・kintone/Salesforceで顧客管理 |
| 補助対象 | システム開発費、外注費、サーバー構築費など | ツール利用料(最大2年分)、導入設定費など |
| 補助額 | 大きい(〜数千万円規模) 例:3,000万円のシステム開発など | 中〜小(数万円〜最大450万円程度) 例:年額100万円のツール導入など |
| 申請難易度 | 高い(事業計画・審査が厳格) | 中〜低(要件重視・共同申請) |
※補助額・補助率は公募回や申請枠によって変動します。
2. ものづくり補助金とは?|スクラッチ開発向きだが採択ハードルは高い
正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」。
中小企業が、生産性向上や新たな価値創出に向けて行う革新的なサービス開発・業務プロセス改革を支援する制度です。
メリット
- 補助金額が大きい
数千万円規模のシステム開発や、本格的なDX投資が可能です。 - オーダーメイド(スクラッチ)開発が可能
既存ツールでは対応できない、自社独自の複雑な業務フローに完全対応したシステムをゼロから開発できます。 - システム以外の設備も対象になり得る
システムと連動する機械装置や専用設備なども、条件次第で補助対象になります。
デメリット・注意点(ここが重要)
- 採択のハードルが非常に高い
単なる「業務効率化」や「古いシステムの入れ替え」では通りません。「このシステムで、どんな新しい価値を生み、競争力をどう高めるのか」を明確に示す、重厚な事業計画が必要です。 - 入金までの資金繰りがシビア(発注側の負担)
補助金は原則「後払い」です。これが最大の落とし穴です。
【例:3,000万円のシステム開発(補助率2/3)の場合】- 補助金で2,000万円戻ってくる予定でも、制作会社には先に3,000万円全額を現金で支払う必要があります。
- その後、国の検査に合格して初めて2,000万円が入金されます。
- つまり、一時的に3,000万円のキャッシュが出ていく体力(またはつなぎ融資)が、発注する御社側に求められます。
- 厳しい達成要件がある
給与支給総額の増加など、事業計画期間中の要件を達成できない場合、補助金返還を求められるリスクがあります。
3. IT導入補助金とは?|SaaS・パッケージ導入向けでスピード重視
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者が既存のITツールを導入して業務効率化を図ることを支援する制度です。
対象となるツールの例(認定ツール)
何でも対象になるわけではなく、事務局に登録された「IT導入支援事業者」の認定ツールのみが対象です。
- 会計・経理: freee、マネーフォワード、弥生会計
- グループウェア: Chatwork、LINE WORKS、Zoom
- 顧客管理・営業支援: kintone、Salesforce、HubSpot
- 業界特化型: POSレジ、建設業向け管理ソフト など
メリット
- 申請の手間が比較的少ない
ものづくり補助金に比べ、書類量が少なくスピーディーに進められます。 - クラウド利用料も補助対象
SaaS型ツールの最大2年分の利用料が補助対象になります。 - 採択率が比較的安定
要件と加点項目を満たせば、一定の確率で採択されやすい傾向があります。
デメリット・注意点
- 登録されたツールしか使えない
個別に開発したシステムや、未登録ツールは対象外です。 - カスタマイズの自由度は低い(重要)
IT導入補助金では、パッケージやSaaSの範囲内での導入・設定が前提です。
「項目設定」「業務フロー設計」「API連携」などの軽微な調整は対象になるケースもありますが、ゼロから機能を作るスクラッチ開発や、原型を留めない大規模改修は、原則対象外となります。
4. 【結論】システム開発で補助金を選ぶならどっち?

重要なのは、「どちらが得か」ではなく「どちらが現実的か」です。
【A】ものづくり補助金を選ぶべきケース
- 世の中にまだない新しいWebサービスを作りたい
- 自社独自の業務フローに完全対応したシステムが必要
- 開発規模が数千万円以上を想定している
- 一時的に全額を立て替えられる資金力がある
【B】IT導入補助金を選ぶべきケース
- 会計・人事・受発注など標準業務を効率化したい
- Shopifyなど既存EC基盤を使ってネットショップを開きたい
- なるべく早く・低リスクで導入したい
5. 【要注意】補助金を使ったシステム開発で実際に起きている「怖い罠」

「補助金を使えば、安くシステムが作れる」
この言葉の裏には、経営を揺るがしかねない落とし穴があります。
特に、3,000万円規模の「ものづくり補助金」案件では、以下のようなトラブルが後を絶ちません。
- 発注者側の悲劇:
「3,000万円払ったのに、補助金の検査だけ通した未完成品が納品され、その後制作会社が倒産した」 - 制作会社側の悲劇:
「3,000万円の売上が立ったが、長期開発の人件費で赤字になり、黒字倒産した」
なぜ、国が支援してくれる制度を使って、このような不幸が起きてしまうのでしょうか。
次回は、私自身が関わった「3,000万円の補助金案件」で、所属していた会社が倒産に至った実例をもとに、「補助金 × システム開発」が共倒れを生む構造を、包み隠さず解説します。
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よくある質問(FAQ)
Q1. Webサイト(ホームページ)制作でも補助金は使えますか?▼
単なる会社紹介サイト(コーポレートサイト)やLP制作は、現在どちらの補助金でも対象外になりやすい傾向です。
ただし、「EC機能(ネットショップ)」や「予約システム」など、業務機能を持ったWebサイトであればIT導入補助金の対象になります。また、ビジネスの中核となる革新的なWebサービス開発であれば、ものづくり補助金の対象になる可能性があります。
Q2. 既存システムの改修でも、ものづくり補助金は使えますか?▼
単なる老朽化対応ではなく、「その改修によって何が革新的に変わり、どう利益が上がるのか」を明確に説明できる必要があります。
Q3. 個人事業主でも申請できますか?▼
一定の要件を満たせば、個人事業主も対象になります。ただし、開業届を出していることや、事業実態があることが前提です。
Q4. 両方の補助金を同時に使えますか?▼
「同じPCを買うのに両方申請する」などは不可です。ただし、事業内容や導入するシステム、年度を明確に分けることで、それぞれ活用できるケースはあります。
Q5. 「補助金があるから見積もりが高額になる」ことはありますか?▼
「どうせ2/3戻ってくるから」と、通常より高い見積もりを出すベンダーも存在します。補助金の有無に関わらず、その金額が事業として適正か(投資対効果が合うか)を必ず確認することが重要です。



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